いわゆる「コンドーム・チート」は犯罪に当たるか

 カナダ最高裁判所が2014年3月7日、交際相手を妊娠させようとコンドームに穴を空けた上で性行為を行ったとして、性的暴行罪に問われた男に対し、下級審の有罪判決を支持する決定を下した、との報道がなされている(※1)。コンドームに穴を開けたことを秘して性交に及ぶ行為に当罰性・可罰性が認められるかどうかについては、「コンドーム・チート」問題と呼ばれ、恋愛法学においても議論の対象とされてきた(※2)。また、女性側が、ピルを服用していると偽って、相手方の男性と性交渉をするという場合(「ピル・チート」)についても、同様に議論の対象とされている(※3)。

 それでは、わが国の現行刑法上、「コンドーム・チート」の処罰は可能であろうか。姦淫に際して、反抗抑圧に向けられた暴行・脅迫が行われていない以上、強姦罪(刑法177条)の構成要件に該当するとはいえない。そこで、検討すべきとなるのは準強姦罪(178条2項)に当たるといえるかである。
 女子の(※4)抗拒不能に乗じ、または抗拒不能にさせて姦淫する行為は、準強姦罪に当たるものとされ、この場合には強姦罪の例による(強姦罪と同一の法定刑が科される)とされている。本罪の保護法益は、強姦罪と同じく性的自由あるいは性的自己決定権に求められる。そこで、まず「コンドーム・チート」が女子の性的自由を侵害するものであるかどうかが問われなければならない。
 確かに、「コンドーム・チート」の場面で、相手方の女性は、姦淫行為自体に同意をしているといえる。したがって、同意が有効である限り、女性の有する性的自己決定の自由は奪われていないと考えることができよう。しかし、コンドームに穴が空いていると知っていれば性行為をしなかったという場合、当該同意は錯誤に基づくものとして無効とならないかが、ここで問題となるのである。この点については理解が分かれるであろうが、錯誤と同意との間に条件関係が肯定できる場合に広く同意を無効とする立場(いわゆる「重大な錯誤説」あるいは「条件関係的錯誤説」)によるならば、「コンドーム・チート」の場合においても、同意が無効となり、性的自由の侵害は肯定されることになるであろう。もっとも、この立場によれば、〔事例〕文也は、司法試験受験生の身分でありながら、自らを大物弁護士であると偽って、好美にアプローチをし、姦淫をするに至ったという場合においても、好美が「ただの受験生と知ったならば姦淫に応じなかった」といえる限り、広く準強姦罪を認めることになるが、そのことの当否は慎重に検討する必要があろう。これに対して、同意を無効とする錯誤を法益関係的錯誤に限定する立場からすれば、「避妊をするかどうか」に関する決定の自由も、準強姦罪法益である性的自己決定の自由に含まれているかどうかがポイントになる。性的自己決定の自由として従来考えられてきたのは、性行為をするかどうかの自由や、誰と性行為をするかどうかの自由であり、「避妊をするかどうか」の自由はこれに含まれないとする考え方は成り立ちうるだろう。ただし、近時は「リプロダクティブ・ライツ」という観念が、1994年の国連国際人口開発会議、1995年の国連第4回世界女性会議で取り上げられたことによって、国際的なレヴェルで急速に浸透しつつある。これには、子どもを作るかどうかに関する自己決定権が含まれており、かかる権利が日本国憲法上においても保障されている(憲法13条)との主張もなされている。「リプロダクティブ・ライツ」の重要性からすれば、「避妊をするかどうか」の自由が、刑法上保護される性的自由から除外されていると当然に考えることはできないように思われる。正解を示すのは困難であるが、同意の有効性については以上の理論的対立を踏まえつつ、慎重に検討する必要があろう。

 また、法益侵害があれば、当然に可罰性が認められるわけではない点には注意が必要である。刑法は、あらゆる法益侵害行為を処罰の対象としてはおらず、それが特定の行為態様によってなされた場合に初めて処罰の対象としている。178条2項は、女子を「抗拒不能」にさせるか、それに乗じて姦淫した場合を処罰の対象としているのである。この、特定の行為態様に当たるかどうかは、罪刑法定主義の観点から厳格に判断されなければならない。
 もっとも、偽計による姦淫の場合、「抗拒不能」に当たるかどうかをいかに判断すべきかは一つの問題である。この点については、「抗拒不能」に心理的抗拒不能が含まれることを前提に、偽計による姦淫が「抗拒不能」状態の利用に当たるかどうかは、結局、錯誤による同意の有効性に帰着するとする考え方(※5)が一般的であるように思われる。この考え方によれば、「抗拒不能」に当たるかどうかを、同意の有効性(法益侵害の有無)の問題と独立に検討する必要はないといえよう。ただし、「抗拒不能」という言葉は、単に錯誤があるという状態を超えて、抵抗が著しく困難であるという状態を指していると考えることができないかについて、若干の疑念が残る。「コンドーム・チート」の場合、コンドームに穴が空いていることについて、相手方女性は錯誤に陥っているのであるが、その錯誤状態を前提としてもなお、性交をするかどうかについての任意性が相当程度確保されていた場合には、「抗拒不能」状態にあったとまではいえないとする判断が、理論上ありうるのかどうなのかは、私の今後の課題としたい(※6)。

(※1) BBC News「Canada condom piercer verdict upheld by Supreme court」<http://www.bbc.com/news/world-us-canada-26488425>(2014年4月14日アクセス)
(※2) この問題を直接取り扱うものではないが、本講義においてもすでに関連する問題を取り扱っている。「事例で考える恋愛法『悲しい錯誤』」<http://d.hatena.ne.jp/fg27/20131127>。
(※3) 少なくともわが国の刑事裁判例には、これが問題となった事例は見当たらないが、民事裁判例の中には、これによって妊娠したことが原因でトラブルになったものが存在している(東京地判平成6年12月22日判例時報1552号88頁)。ただし、本事案では、避妊を偽った行為の違法性等は問題とされていないため、「ピル・チート」問題と直接の関連性を有するわけではない。
(※4) 準強姦罪は客体を女子に限定しているため、「ピル・チート」は本罪に該当しえない。そこで別途、準強制わいせつ罪(178条1項)に該当するかどうかが問われることになろうが、わいせつ行為については、避妊を偽ったかどうかと無関係であるとすれば、これも困難であろう。
(※5) 西田典之『刑法各論』(弘文堂、2012年)92頁。
(※6) なお、広島高裁昭和33年12月24日判決(高刑集11巻10号701頁)は半覚状態の被害者が夫と誤認して行為者と性交した事案で、被害者に重大な錯誤があることを理由に「抗拒不能」に乗じた姦淫を認めている。しかし、相手が夫であると誤認すれば、常に心理的「抗拒不能」状態にあるとはいえないように思われる。