第4講「当事者の意思」

1 はじめに 恋愛関係を育んでいく上で、当事者が互いの「意思」を尊重することが重要であることは言うまでもない。恋愛法(学)もまた、当事者の意思や意向を無視して、客観的に正しい恋愛関係を押し付けるものであってはならないことは、当然である。 とは…

第3講「規範の名宛人」

1 はじめに 恋愛法というルールは、「誰に」対して向けられているのであろうか。すでに、第1講で説明したように、恋愛法は、行為規範としての恋愛法(=狭義の恋愛法)と、制裁規範としての恋愛法(恋愛制裁法)の2つの規範から成り立っている*1。このう…

第2講「恋愛法における保護法益」

1 恋愛法と法益概念 恋愛法における行動規範には、恋愛の当事者に対して、一定の行為を禁止する行動規範と、一定の行為を命令する命令規範が含まれる。いずれの規範も、恋愛の当事者の行動の自由を一定の範囲で制約しようとするものである以上、そのような…

第1講「恋愛法とは何か」

本ブログではこれまで、恋愛法に関する筆者の考えを思いつくままに論じてきた。これによりある程度、議論が蓄積してきた一方で、考察が未熟な点や体系的に十分な整理ができていない点も目立ってきたように思う。そこで、ここからは、これまでの筆者の主張を…

はじめに-恋愛法学の世界へ-

とある居酒屋にて A:あの男は、とんでもない奴だから気を付けた方がいい。自分から告白して付き合ったのに、たった3日間で飽きて別れたらしいぞ。 B:そうなんだ。でも、付き合って気持ちが冷めることもあるし、それも仕方ない気がするけどね。 A:仕方…

「不倫と非難」に関する覚書

とあるお笑い芸人が、著名人の不倫報道に怒りの声を上げる人に対して「糞ブス」と嫌悪感を露わにしたブログの記事が話題となっている。同記事は「不快感の矛先は、不倫した人間ではなくて、不倫をした人間と何の関係もないのに、正義の名の下、怒りを露にし…

浮気のアポリアからの脱却?

恋愛法学における屈指の難問の一つである「浮気のアポリア」は、恋愛法の本質にかかわる問題でありながら、未だ解決を見ていない。そもそも、「浮気のアポリア」とは次のような極めてシンプルな事例の解決を理論的にどう説明するかをめぐって展開された問題…

交際における「因果関係の錯誤」

「恋は錯誤の裏返し」という法格言が示すように、恋愛においては錯誤が付き物である。すでに本講義の中でも幾度となく錯誤問題について検討を加えてきたが、今回は、交際の開始において頻繁に生じうる「因果関係の錯誤」の問題につき若干の考察を行いたい。 …

恋愛法学の実践的役割について

恋愛法学は、恋愛の世界において妥当すべきルールの発見や構築を主な任務としている。これに対して、多くの学生から疑問を投げかけられるのは、その「実践性」についでである。すなわち、恋愛法学がいかに恋愛ルールを明らかにし、それを体系的に整理したと…

恋愛法における真実告知義務の考察

恋愛と「秘密」の関係は古来より難問とされてきた。愛する相手のことについてより多くのことを知り、互いの理解を深め合いたいという欲求は自然なものであろう。他方で、「恋は錯誤の裏返し」という格言に象徴的に示されるように、相手に関する全情報を正確…

浮気者のジレンマ

〔Case〕 孝明は、真理と交際中であったにもかかわらず、由美と浮気をしてしまった。孝明は、そのことを後に反省し、今後も真理と付き合い続けたいと考えたが、浮気をしてしまった事実を正直に告げるべきかどうか迷っている。孝明はどうすべきか。 浮気の禁…

窮状における意思決定と恋愛判断原則

〔Case〕 太郎は、恋人である花子に倦怠感を抱くようになり、別れたいと思うようになったが、花子が未だ自身に対して強い好意を抱いていることから、直ちに別れを告げれば花子を傷つけることになるだろう、と考えた。そこで太郎は、花子に嫌われたうえで別れ…

恋愛法における「当事者の意思」

今回の講義では、恋愛法における「当事者の意思」について考察を加える。恋愛が、恋愛当事者間におけるハートのぶつかり合いである以上、恋愛法と「当事者の意思」との間にも密接な関連性が存在する。一方で、行為規範としての恋愛法を考える場合に、当事者…

恋愛法違反者への「正当な非難」について

恋愛法学では、恋愛において規範的に禁止される行為が何であるかが議論されてきたが、禁止した場合にいかなる効果が生じるかは必ずしも十分に議論されていない。恋愛法学が頻繁に参照する刑法では、その違反が犯罪を構成し、その法的効果として国家に刑罰権…

「別れる自由」の鉄則を堅持するということ

〔導入事例〕 竜児は、実乃梨のことが好きで猛烈にアタックを続けたところ、ついに付き合うことができた。しかし、その僅か一か月後、他に亜美という好きな女性ができたため、実乃梨と別れることを決心した。以下は、教員と学生の対話である。 教員:ありが…

恋愛法における不作為犯に関する一考察

恋愛法は、恋愛における当事者の行動に関する最低限のルールを規範の形で提示するものである。そのような規範として、従来典型的に想定されてきたものは「浮気をしてはならない」、「相手を不当に傷つける発言をしてはならない」等の禁止規範であった。しか…

恋愛における謹慎の要否

恋愛法は、不当に相手を傷つける行為を禁止する行動規範であり、その規範的拘束の限度で恋愛における「自由」は制約される。しかし、恋愛における「相手方選択の自由」や、その裏返しとしての「別れる自由」には絶対的な価値が承認されており、恋愛法をもっ…

合意に基づく規範形成の可能性

恋愛法とは、恋愛において「普遍的」に妥当するルールのことであり、恋愛法学とはかかるルールがどのような内容を有するものであるかについて探究する営みであると考えられてきた。このこと自体は正しく、今後もその探究は継続されてゆかなければならない。…

高橋則夫『規範論と刑法解釈論』

1 はじめに 本ブログの筆者は、刑法学において結果無価値論体系を採用しているが、恋愛法の分析においては、行為規範と制裁規範とを区別し、第一次的には恋愛において妥当する行為規範への違反を問う、行為無価値論的な規範体系を採用するのが優れていると…

浮気をしてはならないのは何故か

「浮気をしてはならない」という行為規範が恋愛法として承認されていることは、今やほとんど異論のないところであると思われるが、この浮気禁止法理の歴史は浅い*1。ここで、浮気や不倫に関する歴史的考察に深入りすることはできないが、浮気がいかなる時代…

恋愛法の名宛人は誰か

恋愛法とは、「恋愛関係において妥当する規範」であると定義される。したがって、その適用範囲は基本的には恋愛関係にある当事者であるということになり、また恋愛法という規範の名宛人(対象者)もまた、これと一致することになろう。しかし、ここでいう「…

嫉妬に関する恋愛法的考察

我々の人生において、恋愛という営みは両義的に作用する。すなわち、恋愛は人に生きる希望を与える契機となることもあれば、不幸のどん底に陥れときにその生命までも危機に瀕するような契機ともなりかねない。私の敬愛する哲学者である荻野恕三郎は、その著…